
人材マネジメント
「伝え方」が組織の成果を左右する

「働き方改革は、ただ単に残業削減が目的ではない。生産性向上こそが本命である」とよく言われます。ただ単に労働時間を短縮しただけでは、「ゆとり労働」になってしまい、企業競争力を削いでしまう恐れがあります。生産性を向上させるためには、「マネジメント改革」と「人材育成(能力開発)」が不可欠です。このレポートでは、管理職の「マネジメント改革」と「人材育成(能力開発)」を同時達成させるための実務的なヒントをお届けします。御社の「働き方改革の実行」「生産性向上」の一助にお役立てください。
よーし!みんな集まったな!!
早速、今期の方針・戦略を発表する!!!
はいっ!!!
今期は、先々の既存マーケットの縮小が予想される為、
新しいマーケットの開拓を重点施策として展開する!!
詳しい戦略については、各マネージャーから聴くように!!
はいっ!!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
よしっ、さっき船長からも話があったように、
このチームの戦略を伝えるゾ!
はいっ!!
このチームは、新しいマーケットの開拓を通して、
昨年比110%の売り上げ拡大と120%の顧客数拡大を目指す!
はいっ!!
・・・・・・?
??
???
えっ?続きは??
えっ?以上だけど・・・
えーーっ!!なに言ってるんですか!?
説明になっていないじゃないですか!
ちゃんと説明責任を果たしてくださいよ!
セ、セツメイ責任?いやッ、今説明したじゃん・・・
全ッ然ッ、説明になっていませんよ!!
藤見マネジャー~~、ちゃんと説明責任があるんですから、
「伝え方」も気を付けてくださいよ~~
(せッ、説明責任?「伝え方」?ちゃんと伝えてんじゃ~ん)
期初のキックオフ、定例会議、現場でのミーティング等々、定期的に方針・戦略を伝える機会を設けていますが、方針・戦略が進んでいるとは言い難い状況です。そもそも、現場へ方針・戦略が浸透をしていないようなのですが、現場のマネージャーへ確認をしてもミーティングで伝えているとの報告は受けています。方針・戦略が浸透しない原因が何かあるのでしょうか?
社内インフラもIT活用で進化を遂げ、社内コミュニケーションも以前より、様々な形で出来るようになっています。ただし、仕組みが整っても、最も大事な「伝え方」に問題があるケースがあります。その為に、「伝え方」を磨いていくことは、狙った成果の向上につながるだけではなく、組織の一員としての責任でもあります。今回は、「伝え方」の重要性、責任、基本の型などについてお話します。
「伝え方」が経営に影響を与える
「中途半端な戦略共有が最も悪い(生煮えの合意は最悪だ)」
(戦略と実行:清水勝彦教授著)
戦略と実行の著者である清水勝彦教授の調査研究によれば、戦略共有度と業績は正比例すると思いがちですが、現実にはU字曲線だったとされています。戦略教諭度が低いのに業績が上がるのは意外だと思う方もいるかもしれませんが、戦略共有度が低い場合、メンバーは『我が道を行く』ため、それなりに業績を上げることができます。しかし、戦略共有度が中程度の場合、戦略をよく理解したつもりになってしまい、また、『我が道』も捨ててしまった宙ぶらりんな状態なため、業績は最悪の結果になってしまいます。
もちろん、企業によっては戦略などを打ち出さず(共有度を上げる必要がなく)、それぞれのメンバー個々人の力で業績向上を狙う企業もあるでしょう。ただ、最近は、戦略を打ち出し、その戦略を組織的に実行する、といった企業が多いなか、戦略が実行されなければ、経営に影響を与えることは言うまでもありません。戦略の実行がなかなか進まない、といった企業の多くは、この戦略共有度が中途半端なのかもしれません。
十分な議論がないまま、中途半端に『合意した』と勘違いするのが最悪で、この中途半端に『合意した』状態はまさに「伝え方」によるものです。いかに「伝え方」が経営に影響を与えるかが分かるかと思います。
「伝え方」を磨くことは責任
「伝え方」を磨くことは、経営への影響から考えても重要であることは、前述の通りですが、実は、「伝え方」を磨くことはビジネスの責任でもあるのです。
そもそも責任とは、
- 自分が引き受けて行わなければならない任務や義務
- 自分がしたことの結果について責めを負うこと
といった言葉の意味があります。これを実務的に解釈すると、果たす・やり遂げること(※「取る」という言葉で逃げない)といえます。また、責任は果たさなければ、信用を得られません。信用がなければ信頼もありません。論語にもあるように『信無くば立たず』、まさに、信頼は経営の基盤と言えます。
では、なぜ「伝え方」を磨くことが責任なのでしょうか。実は、ビジネスにおける責任には2つの責任があります。それは、『結果責任』と『説明(プロセス)責任』です。この両面を果たすことがビジネスにおける責任です。
ただし、『説明(プロセス)責任』とは、ただ状況を説明する責任ではありません。組織の一員である以上、『結果責任』を果たすプロセスにおいて、関係者が必ず存在します。そういった関係者に対して、『結果責任』を果たすために、なぜ・何を・どうやるか(プロセス)を自分がやること・周りに動いてもらうことや期待を伝える責任です。さらに言えば、説明を通じて、自分の責任を明らかにする責任です。
組織において、皆がそれぞれの立場で責任を担って仕事をしているため、その責任を果たそうとするならば「伝え方」を磨くこともまた、責任の一部と言えます。
「伝え方」の2つの基本の型
ここまで、「伝え方」の重要性と責任について話してきましたが、具体的に「伝え方」を磨くためには、どのようにすればいいのでしょうか。ここでは、「伝え方」の2つの基本の型についてお話します。
- 基本の型その1~自分の考えを分かりやすく伝える(説明する)
何をやるか⇒どのようにやるか⇒狙う成果・効果
まずはこのような流れで伝えます。と、ここまでは多くの方ができていることでしょうが、ここでポイントがあります。何をやるか・どのようにやるか、を伝えるときに『なぜ』『目的』を常に入れましょう。人は感情の生き物です。この『なぜ』『目的』が抜けてしまうと、自分は伝えたが、相手には伝わらない、といった事になってしまいます。 - 基本の型その2~相手の話を第三者に正しく伝える
聴く(集中して)⇒確認する・まとめる⇒伝える
まずは聴く。基本の型その1のフレームで聴いて、内容を理解します。そして、確認する・まとめる。自分勝手な聴き方をしていなかったか、まとめることで正しく理解していたか、を確認します。そして最後に、基本の型その1のフレームで伝えます。
基本の型なので、分かっている方も多いでしょうが、上手く人に伝わらない・伝えられない場合は、基本の型の何かが抜けているかもしれません。自分の「伝え方」を振り返り、しっかりと身につけていきましょう。
「伝え方」が磨かれても、信頼がなければ伝わらない
どんなに「伝え方」が磨かれても、その基盤となる信頼がなければ伝わりません。その信頼を得るために、気を付けておきたい2つのポイントを最後にお話します。
- 信頼を得る要素(アリストテレスの信頼を得る3要素:弁論術)
- エトス~誠実⇒道徳的な人格:頼りがい、良い評判等
- パトス~本気度⇒情熱、熱意
- ロゴス~分かりやすさ⇒論理、理にかなった筋道がある構成
- 信頼に影響する伝える側の非言語領域(A・メラビアンの公式)
人が他人から受け取る情報の割合についての実験の中で、コミュニケーション(対面の場合)において人が受け取る情報の割合について、以下の実験結果が出ています。
- 話す言語の内容~7%
- 態度や表情、身振り、手振り~55%
- 声の調子や口調~38%
※全体の93%が非言語領域
人に何かを伝える際には、「伝え方」の基本の型だけではなく、信頼を得る2つのポイントも意識して伝えていきましょう。
まとめ
「伝え方」を磨けば、組織マネジメントの基盤である信頼が高まり、中期経営計画や方針意図の浸透が進み、行動スピードが高まり、狙った成果の向上につながります。また、「伝え方」を磨くことは、組織の一員として責任の一部です。まずは、「伝え方」の2つの基本の型を参考に、自身の「伝え方」を振り返り、しっかりと身につけていきましょう。